関東に出てきてから
自宅以外で過ごす時間が1番長い街は渋谷だ。
いつのまにかどこに何があるかが把握できていた。お気に入りのコーヒー屋さんや映画館もある。表参道への行き方も、代官山への行き方も徒歩でわかる。
お世辞にも綺麗とは言えない街。
人混みと音と光で埋め尽くされている街。
28歳のわたしにはいささか若い街だと思う。
でもわたしはこの街が好きだ。
ただ通り過ぎて行く人混み。
その人混みの中はなんだかホッとする孤独。
他の街に比べて雑多なこの街は、
目的もなくふらふら歩いている
寄り道しながらふらふら歩いている
そんな人たちばかりだ。
その右往左往をする人混みの間を
コートのポケットに手を突っ込んで
風を切るように1人颯爽と歩くのが好きだ。
この街で
目的地にまっすぐ歩いて行ける自分が
なんとなく好きだ。
地に足をつけて
わたしは生きていて、歩いていて
その先には目的地があって
そんな当たり前のことを
思い知ることができる街。
きっと違う街が拠点になれば
わたしはその街のことも好きになるだろうけど
初めて自分で開いた道のある街は
一生特別な街なのだろうという予感もある。
この街に埋もれることが心地よい。
誰もわたしを知らない
誰もわたしに足を止めない
誰もわたしに興味を持たない
無色透明な自分と
無色透明な他人の群れ
人混みの中の孤独という
妙な安心感と絶妙な不安感が
身体の中に染み込んでいく感覚。
電車を降りると同時に上げるイヤホンの音量。
人混みを通り抜ける歩幅は狭く、けれど足早に。
今日もわたしは無色透明だ。